第110章 これがまだ親友のあの恩知らずの長男?

菊地瑠奈の挑発にも、中野航平は眉ひとつ動かさなかった。菊地がこれ以上手を出す気がないと見て取ると、彼は長谷川栞のために水を注ぎに行く。

「温度、ちょうどいい。少し飲め。唇、乾いてる」

そう言って、栞が手を伸ばせば届く位置にコップを置くと、今度はリンゴを手に取り、慣れた手つきで皮をむき始めた。

動きに淀みがない。――初めてじゃないのが一目で分かる。

航平が近づいた瞬間、瑠奈は反射的に身を引いた。

「私は今、食べたくない。……先に出てて」

栞は瑠奈の居心地の悪さを察し、追い払うように言った。

航平は顔を上げ、何か言いかけて黙り込む。結局、小さく頷くと果物を置き、部屋を出ていった。

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